エナメル上皮腫の診断。再発リスクを抱えても知覚麻痺は避けたい

相談者: きーぽんさん (51歳:男性)
投稿日時:2010-10-30 19:04:42
大学病院で、下顎右側エナメル上皮腫の診断を受けました。

レントゲンでは7番下から顎関節付近まで病巣が確認できます。
現時点では、7番を噛み合わせると痛みは生じますが、顎・歯茎の腫れ・痛みはありません。

下顎切除手術しか治療方法はなく、下顎管も切断するため知覚麻痺は不可避とのことです。(顎関節付近まで拡張しており、開窓方法は機能しないであろうとのお考え)

しかし、あと3〜4年は個人的な事情で、あと3〜4年は再発リスクを抱えても知覚麻痺は避けたいと思っており、担当医師も医者として「病根摘出・再発防止」の根治を図っているのは重々分るのですが、その医療方針とは噛み合っていません。


1.病気のアプローチは一般的に医師・大学・病院によって様々だると想像しますが、エナメル上皮腫はそれが当てはまるの病気なのでしょうか?

例えば、「いきなり切除」ではなく、「開窓を行った結果で切除手術を行う」など。

それとも、軽い虫歯治療のように「削って埋める」というように方法は限定的なのでしょうか?


2.患者が医師に不満を持った中での診療はお互い不幸だと思います。

一般論として、歯学界の情報を持たない素人が、希望の医師にかかる効率的な方法はないのでしょうか??


回答 回答1
  • 回答者
細見歯科医院の細見です。
回答日時:2010-10-30 19:29:13
>1.病気のアプローチは一般的に医師・大学・病院によって様々だると想像しますが、エナメル上皮腫はそれが当てはまるの病気なのでしょうか?
>例えば、「いきなり切除」ではなく「開窓を行った結果で切除手術を行う」など。

やはりエナメル上皮種は摘出が一般的だと思いますが、開窓して縮小を待って摘出という考えもも有りますが、年齢的には難しいと思います。


>2.患者が医師に不満を持った中での診療はお互い不幸だと思います。

私も信頼関係がなければ良い医療は成り立たないと思います。


>一般論として、歯学界の情報を持たない素人が希望の医師にかかる効率的な方法はないのでしょうか??

ちょっと思いつきませんね。

相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: きーぽんさん
返信日時:2010-10-30 19:58:20
早々のご回答ありがとうございます。

摘出が一般的とのことですが、その場合にも下顎全切除が一般的なのでしょうか?
下顎管を残しての切除と言うのは、行われないのでしょうか?
回答 回答2
  • 回答者
長崎大学大学院包括的腫瘍学講座の中本です。
回答日時:2010-10-30 20:28:12
きーぽんさん、こんにちは。

下顎骨の切除範囲は、病変の進行具合によって判断されます。

病巣が小さく歯槽部(歯の根の付近)に限局的なケースでは、下顎管を温存した辺縁切除という手術もあります。

ただし、きーぽんさんのケースでは、

>顎関節付近まで拡張しており、

とのことですから、おそらくは辺縁切除の適応にはならないのではないか、と思われます。

回答 回答3
  • 回答者
細見歯科医院の細見です。
回答日時:2010-10-30 20:40:51
病変の広がりを考えると、やはり下顎骨区域切除になると可能性が高いと思います、下歯槽神経の保存は難しいと思います。

回答 回答4
  • 回答者
湯浅です。
回答日時:2010-10-30 21:09:20
開窓療法で、保存的治療が好きな湯浅です。

ここで、たぶん、患者さんにとって誤解があります。
と言っても、こんなことは、誤解するのは、外科の用語の問題で患者さんが誤解するにきまっているという話です。

実は、開窓療法は、2つの大分類と4つの小分類があります。
その4つを分けて考えないとだめなのです。
口腔外科医でも、これらをごちゃごちゃに理解しています。

(I)単純に創部を、しっかりと縫って閉じるか、一部開放にする(開窓療法)かの違い。

(II)病巣が何らかの組織の中にダ円形のようになっており、病巣をとると窪みのようになり、いかにも窓を開けた状態になる場合に使う、開窓療法という意味の時は、以下の4つのパターンがある。

(1)病巣をほぼ摘出して、周囲の骨を一層削除して、開窓にする。

(2)病巣をほぼ摘出して、周囲の骨をそのままにして、開窓にする。

(3)病巣の上方半分以上摘出して、神経に近いところなど危ないところは病巣を残して、開窓にする。

(4)病巣の上方の一部のみに窓を開けて、ほとんど90%近くを残して、開窓にする。


今回は、顎骨という固い組織の中なので、(II)が適応になり、この(1)〜(4)の適応の違いは、病巣が、(A)内部が充実性のものと、(B)内部が液状で周囲に袋みたいになっている病気の違いです。


(A)の代表が、エナメル上皮腫
(B)の代表が、含歯性のう胞

です(歯根のう胞、旧名角化のう胞もあるけど、境界領域のため今回ははぶく)。


さて、治療法ですが、(A)のタイプは(1)か(2)であり、特にエナメル上皮腫は、(1)でないとダメです。これは、ほぼ全員の口腔外科医が同意します。
(3)(4)では、治らないです。

若干、小児のみは、(2)を選択することもありますが、これはリスクもあるので、小児のみ成長を考えての処置です。

この(1)と(2)は、下顎管も切断することがほとんどです。

なぜなら、下顎管は、知覚神経のみで、術者との信頼関係のもと納得して手術を受けられたら、100%の麻痺であっても、慣れて日常生活に支障がないことがほとんどです(そうでない人を見たことがない)。

よって、病巣を残すリスクより、下顎管を切除して病巣を確実に取り除く利益のが高いと、多くの患者さんが思うからです(術者が思うのではない)。


また、エナメル上皮腫は、(1)では、再発率が高いので、顎骨切除が必須とされる先生も多いです。
顎骨切除と(1)との違いは、(I)の開放創か閉鎖創ということでもなく、骨の削除量が違うと理解してください。

さて、この知識を入れてから、

>エナメル上皮腫
レントゲンでは7番下から顎関節付近まで病巣が確認できます。

を考えると、顎関節付近の病巣は、いわゆる開窓療法として、病巣のみを摘出して骨を削除することができません。
これは術者の腕でなく、解剖学的に不可能なのです。

顎骨切除と同じぐらいの骨の除去量を多く行えば、できると表現しても間違いではないですが、そもそも、下顎管の切断は、開窓療法でも必須です。*

よって、下顎切除手術しか手がありません。

ところが、ややこしいことに、この下顎切除手術の後に、(I)の意味で、開放創にして、開窓療法ということもあります。

しかし、基本は、下顎切除手術です。

さらにややこしいのが、下顎切除手術と言いましても、一番下の骨をとる場合と、とらない場合があります。
これは、若干、顔貌の形態にも影響する問題です。

たぶん、湯浅ですと、患者さんと相談して、ほぼ下顎切除手術に近いような(1)、すなわち*を選択する可能性もあります。
しかし、このような場合、僕は、開窓療法という表現はとりません。
たとえ、開放創にしても、下顎切除手術に準じた方法という表現になるでしょう。

しかし、いずれにしろ、きーぽんさんの、下顎管の切断は、必須です。

さて、以上を考えると、


>下顎切除手術しか治療方法はなく、下顎管も切断するため知覚麻痺は不可避とのことです。(顎関節付近まで拡張しており、開窓方法は機能しないであろうとのお考え)

との説明は、まったく妥当なものであることが理解できるでしょう。
もちろん、今回、僕が書いたような開窓療法の概念から説明しません。
そんな、まったく選択されない治療を説明すると混乱するだけで、そんないらない話をする医師がいたら困ります。

よって、他の治療法の選択としては、下顎切除手術の中での違いについてぐらいになります。

さて、もう一点、

>しかし、あと3〜4年は、個人的な事情であと3〜4年は再発リスクを抱えても知覚麻痺は避けたいと思っており、

これも、誤解があります。

再発というのは、(1)か(2)の場合におこる話です(不幸にして、開窓療法より頻度は少ないが下顎骨切除でも、区域切除でも、移植骨にまで再発がおきたということなので、こまった疾患です)。

よって、そもそも、きーぽんさんの場合、(1)(2)のような下顎切除手術より骨の削除量が少ない開窓療法では、病巣がとりきれないのですから、再発という用語は使えず、病気は、そのままです。

すると、さらにエナメル上皮腫は拡大するリスクが高いことになります。
1〜2年で拡大する可能性が高い。

すると、今度は、顎関節突起というところまで摘出して、人工関節をいれるということになります。

すると、知覚麻痺は避けるためには、1年ぐらいで拡大して(エナメル上皮腫は、ゆっくりなときもあれば、1年で激変することも多い病気です)、再度全身麻酔で人工関節まで行う可能性が高いのも納得した上で、全摘出しないことを選択されるということになりますが、責任は術者になく自分にありますとかいう誓約書などが必要でしょう。

3〜4年でなく、3〜4か月なら、選択の余地もあるのですが、3〜4年では・・・。


さて、話を変えます。

今回の問題で、

>2.患者が医師に不満を持った中での診療はお互い不幸だと思います。

とのことですが、たぶん、癌で、かつ生存率が低い場合での、治療拒否で、やりたいことをやりとげるという概念と、死なない良性腫瘍の場合とをごちゃごちゃに考えてられると思います。

もっとも、この問題は、僕も整理がついてないのですが、

テレビなどで影響された余命告知と手術の選択ということを思いながら、今回の担当医の説明を聞くと、たしかに、再発リスクを抱えても機能障害を避けたいという気持ちになるでしょう。

しかし、今回の問題は、このような場合と異なります。

医師の説明も妥当で、ほとんどの口腔外科医が同じような説明をします(僕も同じ説明です)。
それを不満と感じられたことは不幸ですが、転院も視野に入れなければならないということになります。


最後に、知覚麻痺について述べます。これは、患者さんにとっては、おおきな障害ですので、軽々しく発言できないし、きーぽんに怒られるかもしれませんが、あえて書いておきます。

僕は、このような、納得した手術での知覚麻痺で、会話がおかしくなったり、食事がとれなくなった方は知りません。

若干気になる方、ご飯粒が唇についても気が付かないと訴えるかたはいます。
ただし、ご飯粒がついてもわかならいので、しっかりとナプキンで唇をふくことで日常生活が困らない。

まあ、歌手とか楽器をされている方は、また別になります。

と暗い話ばかりしました。

ここからは、ちょっと明るい話です。

たしか、以前にもこのサイトで紹介したのですが、顎骨を切除した後に、他の部位から神経をもってきて移植ということも病院によっては行われています。しかし、この神経、太い割に、弱いので、完全に近くが戻るかはわかりませんが、論文には良好だったとありました。

http://www.mcci.or.jp/www/shinkei/kaiho/vol.11.pdfの7番

また、たしか、回答者の畑田憲一先生の母校の東京歯科大では、神経をいったん引き抜いて手術をするというスーパーテクニックを駆使していたはずです。
これでもまったく麻痺がでないということではありませんが、治癒の可能性は高いです。

でも、今もされているかは不明です。

しかも、一般的な話でないので、この説明がなかったので不満だと言われたら、医師は、世界中の外科医の、細かなテクニックまで説明しなければならなくなりますし、たまたま僕が知っているだけで、説明はしないのが普通ですので誤解がないようにお願いします。

しかし、中本先生が書かれているように、神経の骨への入口よりさらに上方まで病巣があれば、これらのテクニックも使えないかもしれませんので、これ以上は、これらの大学で診察しないとわかりません。


以上より、これらの病院に、セカンドオピニオン自費)を求めて、納得いけば転院(保険治療)するのが良いかと思います。

相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: きーぽんさん
返信日時:2010-10-30 23:37:53
先生方、ご多忙の中ご回答ありがとうございました。
特に、湯浅先生のご説明は詳細でこの病気が理解できました。

私が受けた説明は
1.開窓療法〜開窓しゲンアツ(減圧?)・下顎管切除不要 
                      【(?)の方】
2.下顎切除(切断)手術

の2通りだったため、なぜ中間の『病巣を全摘出したうえでできるだけ周囲の骨を残す[(1)に近い考え方]』というアプローチは考えないのかと思っていた次第です。

レントゲンを見ると、病巣の周りには健全な(に見える?)骨も額縁のように残っているからです。

ご説明を読んで、結論としては「解剖学的に病巣のみの摘出は不可能(顎関節)」かつ、「病巣が広すぎて辺縁切除(周囲の骨は残す?)は適応不能」のための下顎切断手術ということなのかと理解しました。

ただ、「病巣を残すリスクより、下顎管を切除して病巣を確実に取り除く利益のが高いと、多くの患者さんが思うから(後者が真)」というのは少々キツかったです。

私の場合、既に別の部位に大きな知覚麻痺を抱えています。
確かに、日常生活に大きな障害はありません。
麻痺はありますが、部位は動くからです。

ただし、小さな障害は山ほどあり、それが積って精神的にすごく辛いのが現状です。
毎日のことで、かつ、どうしても健康体の時と現状の比較をしてしまいますから。

そのため、「良性(稀に悪性転換もあるようですが低率)なら再発(確率50%)しても手術で済むから、麻痺がさらに増えて辛くなるよりは・・・」という考えになってしまう次第です。
特に顔面は感覚が敏感な部位ですから。
(さすがに悪性と麻痺なら選択の余地はないでしょうが)

愚痴が入って申し訳ありません。
今回ご説明いただき本当に助かりました。
麻痺をもう一つ受け入れなければならないのが明確に理解できました。
質問して良かったです。

スーパーテクを頼るという道もできましたし。

忙しいところどうもありがとうございました。
相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: きーぽんさん
返信日時:2010-11-02 21:01:48
いくつかの病院で診察を受けて、アプローチの違いを痛感しました。

病巣摘出を優先するところ、機能温存を優先するところ、まちまちでした。

これが運(出会い)だけで決まるのもやりきれない気持ちがありますが、その中で忙しい中、アドバイスを下さった先生方に心から感謝します。

このような地道な献身が、患者の満足→医師への信頼・尊敬につながると思います。



タイトル エナメル上皮腫の診断。再発リスクを抱えても知覚麻痺は避けたい
質問者 きーぽんさん
地域 非公開
年齢 51歳
性別 男性
職業 非公開
カテゴリ 口腔外科関連
回答者




  • 上記書き込みの内容は、回答当時のものです。
  • 歯科医療は日々発展しますので、回答者の考え方が変わることもあります。
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