熱いものがしみる臨床症状と歯髄炎の診断についての疑問

相談者: k_kazamiさん (31歳:男性)
投稿日時:2010-09-27 04:50:38
こんにちは。
以前から疑問に思っている点について質問させてください。

[1]
冷たいものにしみるより、熱いものにしみるほうが、より歯髄が危険な状態になっていると言われるのは何故でしょうか?
それらを感じる神経線維の場所が関係するのでしょうか?

[2]
末期の化膿性歯髄炎では激烈な自発痛や放散痛等が出てくると思うのですが、その際に咬合痛が併発していたり、歯牙挺出感を感じる場合、根尖性歯周炎が続発=根の先まで感染が及んでいる可能性は高いのでしょうか? 




※参考:過去の相談※
「虫歯治療後、滲みる症状が数年単位で続いています」


回答 回答1
  • 回答者
回答日時:2010-09-27 14:53:01
>[1]

歯髄という組織は非常に循環が悪い所で、炎症がひどくなると中に血液で充血状態になり内圧が上がり痛みを発します。

炎症が少ない状態では神経の閾値が上昇して、冷たい刺激で痛みを感じます。
この状態はまだ正常に近い神経の反応と言えます。

しかし炎症が進んでくると充血してきますので逆に冷やすと炎症症状を和らげる効果となり、暖めると血液が行き場を失っていた、痛みが増します。


>[2]

歯随に炎症が起きると、少なからず根尖孔を通じて歯根膜に炎症が起こり、歯根膜が腫れるとそれに伴い歯牙の移動が起こります。
ですから浮いた感じではなく、実際に咬合接触が強くなっている状態になります。
この状態で経過すると咬む刺激が悪い方向に作用して、歯根膜の炎症を憎悪させると考えられます。

歯髄の特徴として、非常に循環不全になりやすい所ということです。
ですから乳歯永久歯でも根未完成歯などはまだ根尖孔が広く空いているため、一旦歯髄に炎症が起きても成人よりは回復してくれる可能性が高いと言えます。

化膿性歯髄炎は末期でなくても激烈な痛みとなるでしょう。
歯髄充血から単純性歯髄炎、までの痛みは個人差があるかもしれませんが。

回答 回答2
  • 回答者
回答日時:2010-09-27 18:07:06
k_kazami さん、こんにちは。


ずいぶんお詳しいですね。


>[1]

臨床的には歯髄炎症が進んでくると冷たいものから熱いものがしみるようになります。

しかし臨床的な症状と実際の歯髄の組織学的の変化は一致しないことも多く、症状からだけで歯髄組織の状況を判定することは困難です。

歯髄内の神経繊維はいくつかの種類があり、おっしゃるようにそれぞれが分布する場所が違います。

また、反応の仕方にも差が有ります。

歯髄の炎症状態によっても変化します。

そういったことから、歯髄炎の進行による症状の変化と関連しているのではないかといわれていますが、まだそのあたりのことははっきりわかっていません。






>[2]

神経線維に刺激が加わると、神経ペプチドが放出され、周辺に炎症を起こします。

神経の中には、歯髄と歯牙周辺の組織、あるいは複数の歯を支配するものがあります。

そのため、刺激の加わった部位よりも広い範囲で、血管拡張や炎症を引き起こします。

このような原理から、根尖への感染が無くても、咬合時の疼痛を感じることがあります。


また、化膿性歯髄炎という病名についてですが、歯髄の病変に関しては、症状と実際の組織学的な変化とは一致しないことが多く、臨床的には、あまり意味がありません。

つまり、強い自発痛があっても、歯髄が化膿性の変化を起こしているとは限らないということです。

相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: k_kazamiさん
返信日時:2010-09-28 12:47:31
こんにちは

尾崎先生>

詳細なご回答有難うございます。
炎症は解剖学的形態による要因が大きいと理解いたしました。

以前急化pulになったことがあり問題の歯だけ異常に早期接触する感触があったため挺出感と表現しましたが、感じでは無く実際に浮いていたのかもしれないですね。

小牧先生>

知覚過敏歯髄炎について理解するために病理学の解説書を読んでいたのですが、神経性因子 (神経ペプチド・Aδ繊維・C繊維) について述べられた項があり、何らかの関係があるのかと想像しておりました。
まだまだ解明されていないことも多いようですが [2] 咬合痛の原因について別の視点からのご意見その他、ありがとうございました。

必ずしも症状と組織的変化がリンクしないことも理解しましたが、現実ではそれっぽい症状があれば回復は望めなさそう、と言う印象を受けました。
回答 回答3
  • 回答者
回答日時:2010-09-28 13:53:41
>必ずしも症状と組織的変化がリンクしないことも理解しましたが、現実ではそれっぽい症状があれば回復は望めなさそう、と言う印象を受けました。


そのとおりです。

臨床症状からは、可逆性歯髄炎か不可逆性歯髄炎かの診断しか下せません。
(それも難しいこともあるのですが)

不可逆性歯髄炎の診断に温熱痛を指標として用いた場合、感度はやや低く、特異度は高い。

つまり、温熱痛があればほぼ不可逆性歯髄炎である。
しかし、温熱痛が無くても、不可逆性歯髄炎の可能性はある。

相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: k_kazamiさん
返信日時:2010-09-29 07:46:36
小牧先生>

色々と参考になります。

この「指標」と言うのは何か根拠となるデータみたいなもの?があって、それを元に診断を行っている、というようなお話なんでしょうか?
何かの本で感度や特異度 (そこでは有病/無病正診率と書いてあったと思います) の話が載っていて、ある検査を行った際の正確度合についての内容だったと思うのですが、同じような意味でしょうか。

もう専門的過ぎて半分よく分かっていませんが(^^;
回答 回答4
  • 回答者
藤森歯科クリニック(兵庫県西宮市)の藤森です。
回答日時:2010-09-29 11:19:33
新型インフルエンザの簡易検査について、何かの記事に出てなかったでしょうか?

確か、陽性と判定されたら、おそらくは陽性。
でも陰性と判定された場合は陰性とは限らない・・(でしたでしょうか?)。



sensitivity(感度、感受性)
specificity(特異度、特異性)

元の英語の方が分り易いと思います。

回答 回答5
  • 回答者
回答日時:2010-09-29 12:19:42
すみません、感度と特異度の高低が間違ってましたので訂正しておきました。




診断学といってちょっと理解しにくい分野かもしれませんね。

「指標」という言葉を使いましたが、専門的には cut off point といいます。

たとえば高血圧症を例に挙げれば、最高血圧140を cut off point とすると、140を超えると将来循環器系の大きな問題を起こす、140未満なら起こさないとします。


循環器系で問題を起こした人の中で、140以上の人の割合を感度といいます。

循環器系の問題を起こさなかった人の中で、140未満の人の割合を特異度といいます。


余計に判りにくいかな。


不可逆性歯髄炎に話を戻して。


cut off point を熱いもので痛みを感じるとします。

感度が低いということは、歯髄炎の歯で温熱痛のあった歯(真の陽性)はそんなに多くないということをあらわします。

特異度が高いということは、歯髄炎でない歯で温熱痛のある歯(偽陽性)はほとんど無いということです。



別の見方をすると、歯髄炎でないのに温熱痛を感じる(偽陽性)歯はほとんどないので、検査結果が温熱痛を感じる(陽性)場合は、おそらく歯髄炎である確立(陽性的中率 PPV)が高いということになります。

ただし、陽性適中率というのは、有病率という別の数字に左右されますので、少し注意が必要です。

何かの症状を持って、来院したということを考えれば、有病率は高くなり、結果的に陽性的中立も高くなります。
また、擬陽性が限りなくゼロに近ければ、有病率がやや低くても、やはり陽性的中率は高いままです。



ということで、温熱痛を感じたらまず歯髄炎を強く疑ってもいいと思います。


では、温熱痛が無かったらどうなのか。

これは、陰性適中率といって、・・・・

ごめんなさい、さらにややこしくなりそうなので解説はやめて。

温熱痛が無くても歯髄炎の可能性は結構ありますよという、結論だけにとどめておきます。

相談者からの返信 相談者からの返信
相談者: k_kazamiさん
返信日時:2010-09-29 19:47:43
小牧先生、藤森先生 こんばんは
返信ありがとうございます。

以前見た本を見つけました。改めて見てみると診断学について書いたページが少しだけあり、小牧先生の書かれている内容も全て載っていました。
表と数式でまとめてみようと考えたのですが、間違えたらはずかし過ぎるのでやめておきます (^^;



タイトル 熱いものがしみる臨床症状と歯髄炎の診断についての疑問
質問者 k_kazamiさん
地域 非公開
年齢 31歳
性別 男性
職業 非公開
カテゴリ 虫歯、知覚過敏の痛み
う蝕関連
その他(診断)
回答者




  • 上記書き込みの内容は、回答当時のものです。
  • 歯科医療は日々発展しますので、回答者の考え方が変わることもあります。
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