ラバーダムは理想論!?(根管治療の成功率)
相談者:
Mさん (38歳: )
投稿日時:2007-04-21 00:27:00
以前にも質問させて頂いてますが、また新たな事で質問、すみません。
左上6番の神経を抜く事になりました。
知覚過敏かと思ってましたが、中はひどい虫歯で、差し歯になるそうです。
さっそく先生に「ラバーダムは使うのですか?」と聞きました。
そうしたら先生の回答はこうでした。
先生:
「大学病院ではやってるよ。大学病院に行ってもいいよ。でもラバーダムは僕は理想論だと思う。僕らは準不潔状態の中で治療をしているんだよ。そんなこと言ったら、ラバーダムにも菌はついてるし、器具にだってついてるよ。」
私:
「そうしたらやっぱり感染しちゃうってことですか?」
先生:
「処置をした後の方が大変なんだ。ヘリに汚れでもついていたらそこから菌が入ってしまう。一応唾液の入らないようにはやる。成功率は80%」
と言われました。
80%って・・・
以下、質問が、歯チャンネルにいらっしゃる先生がたに、ケンカ売ってるような内容でスミマセン。
ラバーダムの必要性はこちらの先生に、とことん教えられ承知しております。
実は、この治療の後、インプラントの治療も控えています。
先生は巷では評判もよく、一応名のある人らしく、患者の私から見ても、対応もいいと思っています。
この歯だけ大学病院に行ってやってもらうべきか、先生の成功率80%を信じてやってもらうべきか?
火を見るよりも明らかな質問かも知れませんが、私にとっては一大事でもあり、申し訳ありませんが、アドバイス下さいませんか?
ちなみに次の治療は連休明けです。
左上6番の神経を抜く事になりました。
知覚過敏かと思ってましたが、中はひどい虫歯で、差し歯になるそうです。
さっそく先生に「ラバーダムは使うのですか?」と聞きました。
そうしたら先生の回答はこうでした。
先生:
「大学病院ではやってるよ。大学病院に行ってもいいよ。でもラバーダムは僕は理想論だと思う。僕らは準不潔状態の中で治療をしているんだよ。そんなこと言ったら、ラバーダムにも菌はついてるし、器具にだってついてるよ。」
私:
「そうしたらやっぱり感染しちゃうってことですか?」
先生:
「処置をした後の方が大変なんだ。ヘリに汚れでもついていたらそこから菌が入ってしまう。一応唾液の入らないようにはやる。成功率は80%」
と言われました。
80%って・・・
以下、質問が、歯チャンネルにいらっしゃる先生がたに、ケンカ売ってるような内容でスミマセン。
ラバーダムの必要性はこちらの先生に、とことん教えられ承知しております。
実は、この治療の後、インプラントの治療も控えています。
先生は巷では評判もよく、一応名のある人らしく、患者の私から見ても、対応もいいと思っています。
この歯だけ大学病院に行ってやってもらうべきか、先生の成功率80%を信じてやってもらうべきか?
火を見るよりも明らかな質問かも知れませんが、私にとっては一大事でもあり、申し訳ありませんが、アドバイス下さいませんか?
ちなみに次の治療は連休明けです。
回答1
歯医者/歯科情報の歯チャンネル運営者の田尾です。
回答日時:2007-04-21 01:10:00
う〜ん、こんなことを聞いたら、渡辺先生あたりは怒り狂って発狂しちゃうかもしれないですね・・・(汗)
というわけで、まずは僕が簡単に代弁させて頂きます。
そもそも、「ラバーダムにも菌はついてるし、器具にだってついてる」という発言が理解できません。
治療前には器具は当然滅菌をしているはずですし、ラバーダムも装着したあと、J(イソジン)とオキシドールで消毒します。
確かに空気中にも多少は細菌がいるので、全く無菌というわけではないでしょうが、根管治療が失敗した歯から検出される細菌は空気中の細菌ではなく、もともとお口の中にいた菌です。
つまり、根管治療の際に歯の中に細菌を入れてしまうことが、根管治療が失敗する最大の原因だと考えて良いと思います。
それを踏まえた上で当サイトの他の相談を読んで頂ければ、なぜラバーダムが必要なのか、根管治療中にうがいをしてはいけないのか、J-OPENがなぜダメなのかなど、ご理解頂けるかと思います。
⇒参考:歯科相談室:ラバーダム
「一応唾液の入らないようにはやる」ということについても、だったら徹底的に唾液が入らないように、ラバーダムすれば良いんじゃないか・・・と思いますし。
ただ、僕や渡辺先生、タカタ先生などはラバーダムは当然!ということを言っていますが、日本の歯科界全体からすれば間違いなく少数派なんです・・・。
(タイヨウ先生ですら、以前はラバーダムをされていなかったということですし・・・。理由はこちら⇒ラバーダム)
しかし、実は先進国にも関わらず、ラバーダムをこれだけ使っていない日本自体が世界から見れば少数派だったりするんですけど・・・。
大学病院であれば確かにラバーダムを使ってくれることが多いと思いますが、担当医の問題が・・・。
⇒参考:根管治療後の不快感と、保険外の費用・治療費、大学病院での治療
そして、根管治療の専門医(得意としている)先生がいるような歯科医院での治療には、そのような歯科医院自体が見つけにくいということと、費用の問題が・・・。
⇒参考:保険外(自費)の根管治療について
そう考えると、どの選択肢にもそれぞれメリット・デメリットがあるんですよね。
どの選択肢が一番良いのかは、患者さん自身がどのような価値観を持たれているのかということによって、変わってくるものだと思います。
このような情報について知って頂き、Mさん自身に最も納得の出来る選択肢を選んで頂ければ、このサイトで情報を発信している意味もあるのかなぁ・・・と思います。
あ、でも、担当の先生とは口論しないようにして下さいね・・・。
(話し合いは十分にして下さい)
いろんな考え方の先生がいて、それぞれの先生がそれぞれの信じる方法で真剣に治療をされていますので・・・。
(と言いつつ、実は自分の身を案じていたりして・・・)
というわけで、まずは僕が簡単に代弁させて頂きます。
そもそも、「ラバーダムにも菌はついてるし、器具にだってついてる」という発言が理解できません。
治療前には器具は当然滅菌をしているはずですし、ラバーダムも装着したあと、J(イソジン)とオキシドールで消毒します。
確かに空気中にも多少は細菌がいるので、全く無菌というわけではないでしょうが、根管治療が失敗した歯から検出される細菌は空気中の細菌ではなく、もともとお口の中にいた菌です。
つまり、根管治療の際に歯の中に細菌を入れてしまうことが、根管治療が失敗する最大の原因だと考えて良いと思います。
それを踏まえた上で当サイトの他の相談を読んで頂ければ、なぜラバーダムが必要なのか、根管治療中にうがいをしてはいけないのか、J-OPENがなぜダメなのかなど、ご理解頂けるかと思います。
⇒参考:歯科相談室:ラバーダム
「一応唾液の入らないようにはやる」ということについても、だったら徹底的に唾液が入らないように、ラバーダムすれば良いんじゃないか・・・と思いますし。
ただ、僕や渡辺先生、タカタ先生などはラバーダムは当然!ということを言っていますが、日本の歯科界全体からすれば間違いなく少数派なんです・・・。
(タイヨウ先生ですら、以前はラバーダムをされていなかったということですし・・・。理由はこちら⇒ラバーダム)
しかし、実は先進国にも関わらず、ラバーダムをこれだけ使っていない日本自体が世界から見れば少数派だったりするんですけど・・・。
大学病院であれば確かにラバーダムを使ってくれることが多いと思いますが、担当医の問題が・・・。
⇒参考:根管治療後の不快感と、保険外の費用・治療費、大学病院での治療
そして、根管治療の専門医(得意としている)先生がいるような歯科医院での治療には、そのような歯科医院自体が見つけにくいということと、費用の問題が・・・。
⇒参考:保険外(自費)の根管治療について
そう考えると、どの選択肢にもそれぞれメリット・デメリットがあるんですよね。
どの選択肢が一番良いのかは、患者さん自身がどのような価値観を持たれているのかということによって、変わってくるものだと思います。
このような情報について知って頂き、Mさん自身に最も納得の出来る選択肢を選んで頂ければ、このサイトで情報を発信している意味もあるのかなぁ・・・と思います。
あ、でも、担当の先生とは口論しないようにして下さいね・・・。
(話し合いは十分にして下さい)
いろんな考え方の先生がいて、それぞれの先生がそれぞれの信じる方法で真剣に治療をされていますので・・・。
(と言いつつ、実は自分の身を案じていたりして・・・)
回答2
回答日時:2007-04-21 06:02:00
こんばんは。
Mさんも板ばさみみたいになっちゃって、大変ですね。
ラバーダムの話をすると、歯医者的には身の危険もあるのですが、患者さんが自分の身を守るのには大切な情報だと信じていますし、若い先生も読まれることがありますから、敢えて書いていきますね。(長くなりそう・・)
Mさんの担当の先生の様におっしゃる先生は多いですよ。
実際、全く同じことを言う先生を何人か見たことがあります。
大学では習いませんから当然といえば当然、得意分野が違う・・ということで、仕方のないことかも知れません。
で、その件は置いておいて、医学的に話をしていきます。
関東の某新興住宅地(※全国各地から急に人口が流入してきていた地域)で開業されている先生が、医院に来院された初診の患者さんのお口の状況を記録して、雑誌に掲載されたデータがあります。
つまり、日本人の平均的な治療を受けてきた人たちの状況、と言っていいと思います。
【初診患者2,339名の61,532歯をレントゲン上にて調べた結果】
・根尖病変(根っこの先端に黒い影が写った歯)の割合 73.52%
記録の仕方に問題があった可能性は否定できませんが(ご本人もそのことは記載されてます)、これは諸外国のデータと比べて異様に高いのです。
引き続き抜粋させて頂くと、
なのだそうです。
このあたりの数値なら、私も知っている様な数字とほぼ一致します。
でこの先生が面白かったのは、この後、「それでは日本人の歯医者の根管充填が特別下手くそなのか?」という事も同時にレントゲンから記録されたんですね。
・根管充填(白く写るお薬)が不十分なものの割合 55.36%
(短いとかぼそぼそとか長すぎるとか)
この数値は、もしかしたら低い様にも感じるでしょうが、これまた諸外国のデータと比較してみたところ、恐いほど数字が近似、つまり同じレベルっぽい・・という事なんですね。
ここから先は”憶測”になるのかも知れませんが、何故日本人だけ根管治療の成功率がこんなに低いのかを考えると、ラバーダムに代表される様な、日本人歯科医師の、細菌感染に関する基礎知識のなさが原因ではないかと思えてなりません。
(専門でもなんでもない私ごときが気が引けますけど・・)
Mさんの担当の先生が言われたとおり、世の中(空気中、器具など)菌だらけですし、特に”ヘリ”についている様な菌(プラーク)には根尖病変を引き起こすとされる菌も含まれる可能性がありますから、無視する訳にはいきません。
ただ、菌の種類や特性についての知識が若干必要だと思います。
根尖病変を引き起こすとされる菌については大体特定されていて、空気中の菌や器具の菌ではなくてお口の中にいる菌です。
まあ、可能性がないこともないでしょうけど・・。
参考⇒根管治療の途中からラバーダムをするのでは遅いですか?
根管充填をすると、あとは密閉されてしまいますから、お口の菌の中(300〜500種類)でも、『酸素がなくても平気で、身体の中にあるもの(血液など)を栄養にして繁殖できる菌』しか生き残れません。(深い歯周ポケットと同じ環境ですね)
ということで、試しにそういう菌だけを根管治療のステップごとにサンプリングして培養した写真をアップします。
(酸素をなくして体温ぐらいの気温+栄養素は血液と同じ成分のみという環境で2週間ぐらいの培養をしています。)
【拡大】
1)
はラバーダムしただけの状態で、やっぱり細菌が検出されています。
2)
はラバーダム、”ヘリ”を消毒した後です。菌が検出されてないので、これで治療中新たに混入させる危険はないかな?と判断できます。(この時に使用した薬剤については後述します)
3)
は水を使って、それまで根管の中に入れてあった消毒薬を取り除いたところです。それまでの消毒が上手く行ってない場合は菌が検出されます。
4)
はその日の消毒が終わって、最後に薬をまた入れて仮の蓋をする直前です。万が一、途中でラバーダムの隙間などから新たに菌を混入してないか、その日の消毒が十分だったかの確認になります。
こういう検査法(嫌気培養と言います)にも、問題がないとは言えないのですが、かなり参考になると思います。
大学病院だったらもしかすると頼めばしてもらえるかも知れません。
(※実は保険点数もつくのですが、この方法は特殊な設備・費用が必要なため、普段からやられる先生はまずいらっしゃいません。現在私も使用しているもう少し簡便な方法もあるのですが、検査の精度は更に落ちると思います。)
もうクドイかも知れませんが、根管治療の成功率についても触れておきます。
過去の研究論文では、
(研究者名/発表年/治療後の観察期間/成功率 の順)
※成功とは・・
「症状がなく且つレントゲン上では正常な歯根膜腔が存在すると見られる状態」
参考⇒これは、いわゆる「根管治療で失敗したケース」でしょうか?
だそうです。
こういった論文の中から初回治療(抜髄、未治療の感染根管)、再治療(すでに根管充填してある、再治療の感染根管)を分けて、なおかつ研究の仕方がしっかりしていて、観察年数も統計学的に統一して計算して、なおかつ「ラバーダムをきちんと使用しているもの」に限ってデータをまとめていくと、
となるそうです。
(95%CIとは、統計学的な考え方で、「この数字の範囲の中に、95%の確率で”真実”の値が含まれていますよ」という意味。範囲が広くなるほど統計の信憑性が怪しくなります)
(※宮下裕志先生による統計 歯界展望 2001 vol.97より)
「ラバーダムをきちんと使用していなかった」Jokinen(1978)の論文の内容については、以下の回答の中でも触れています。
参考⇒根っこの治療(根管治療)に高周波治療は有効?
・・ということですから、同じ成功率の数値を引用するにしても、途中のステップやテクニックが違えば結果は当然変わります。
歯の形も色々ですので、Mさんの今回の歯(左上6番)だと特に難しい歯ですね。
上手な先生にきちんとやってもらっても90%以下、ラバーなしなら50%以下と考えるのが妥当だと思います。せめて大学病院に行かれた方が、いいかも知れませんね。
(話はそれますが、サイトで色んな”確率”をまとめてしまった田尾先生には、本当に頭が下がる思いです。田尾先生とは元々知り合いでもなかったのですが、私の少ない知識で読んでみても不審な”確率”ってなかったですから、まとめるのには大変な苦労をされたことと思いますよ。因みに私は大体、「読んだ人から聞いた話」で楽してます・・。)
以下、患者さん向けではない内容になります。
【ラバーダム装着後の消毒について】
私は30%オキシドールを暫くつけて→5%Jを暫く使います。
理由としては、以下の結果を参考にしています。
Moller(1966)の一連の研究(3部作)によると・・
1.
ヨード(J)5%以上の濃度であれば、1分以上消毒すればラバーダムの汚れは消毒できる。(※細菌は成熟してない状態)
2.
成熟した細菌(バイオフィルム=プラーク)はJのみ、あるいはH2O2(オキシドール)のみでは消毒できなかった。H2O2 30%とJ5%の併用が数分必要。
3.
無菌になる時間の組み合わせ(↓上下でペアです)
とのことです。
ただし、30%のオキシドールは、ラバーダムに慣れてない様な先生が使用すると、隙間から口の中に漏れて化学ヤケドを起こしてしまう猛烈な濃度なので、あまり安易には真似しないで貰いたいのですが・・。
私もさすがに合計6分はおいてませんし(※それでも上記の培養検査で検出されなかったので)、オキシドールの代わりに歯ブラシなどを使用される先生もいらっしゃいます。
聞いた話では米国の専門医でもJしか使用しない様ですから、細かい薬剤や濃度については必ずしも重要視されてなさそうです。
ただ少なくとも、ラバーダムをしただけではまだ処置を始めず、なんらかの消毒は必要だと思います。
Mさんも板ばさみみたいになっちゃって、大変ですね。
ラバーダムの話をすると、歯医者的には身の危険もあるのですが、患者さんが自分の身を守るのには大切な情報だと信じていますし、若い先生も読まれることがありますから、敢えて書いていきますね。(長くなりそう・・)
Mさんの担当の先生の様におっしゃる先生は多いですよ。
実際、全く同じことを言う先生を何人か見たことがあります。
大学では習いませんから当然といえば当然、得意分野が違う・・ということで、仕方のないことかも知れません。
で、その件は置いておいて、医学的に話をしていきます。
関東の某新興住宅地(※全国各地から急に人口が流入してきていた地域)で開業されている先生が、医院に来院された初診の患者さんのお口の状況を記録して、雑誌に掲載されたデータがあります。
つまり、日本人の平均的な治療を受けてきた人たちの状況、と言っていいと思います。
【初診患者2,339名の61,532歯をレントゲン上にて調べた結果】
・根尖病変(根っこの先端に黒い影が写った歯)の割合 73.52%
記録の仕方に問題があった可能性は否定できませんが(ご本人もそのことは記載されてます)、これは諸外国のデータと比べて異様に高いのです。
引き続き抜粋させて頂くと、
ポルトガル | 27.0% |
スイス | 31.0% |
スウェーデン | 31.0% |
米国 | 31.3% |
ノルウェー | 38.0% |
オランダ | 39.2% |
ベルギー | 40.4% |
イギリス | 58.1% |
ドイツ | 61.0% |
なのだそうです。
このあたりの数値なら、私も知っている様な数字とほぼ一致します。
でこの先生が面白かったのは、この後、「それでは日本人の歯医者の根管充填が特別下手くそなのか?」という事も同時にレントゲンから記録されたんですね。
・根管充填(白く写るお薬)が不十分なものの割合 55.36%
(短いとかぼそぼそとか長すぎるとか)
この数値は、もしかしたら低い様にも感じるでしょうが、これまた諸外国のデータと比較してみたところ、恐いほど数字が近似、つまり同じレベルっぽい・・という事なんですね。
ここから先は”憶測”になるのかも知れませんが、何故日本人だけ根管治療の成功率がこんなに低いのかを考えると、ラバーダムに代表される様な、日本人歯科医師の、細菌感染に関する基礎知識のなさが原因ではないかと思えてなりません。
(専門でもなんでもない私ごときが気が引けますけど・・)
Mさんの担当の先生が言われたとおり、世の中(空気中、器具など)菌だらけですし、特に”ヘリ”についている様な菌(プラーク)には根尖病変を引き起こすとされる菌も含まれる可能性がありますから、無視する訳にはいきません。
ただ、菌の種類や特性についての知識が若干必要だと思います。
根尖病変を引き起こすとされる菌については大体特定されていて、空気中の菌や器具の菌ではなくてお口の中にいる菌です。
まあ、可能性がないこともないでしょうけど・・。
参考⇒根管治療の途中からラバーダムをするのでは遅いですか?
根管充填をすると、あとは密閉されてしまいますから、お口の菌の中(300〜500種類)でも、『酸素がなくても平気で、身体の中にあるもの(血液など)を栄養にして繁殖できる菌』しか生き残れません。(深い歯周ポケットと同じ環境ですね)
ということで、試しにそういう菌だけを根管治療のステップごとにサンプリングして培養した写真をアップします。
(酸素をなくして体温ぐらいの気温+栄養素は血液と同じ成分のみという環境で2週間ぐらいの培養をしています。)
【拡大】
1)
はラバーダムしただけの状態で、やっぱり細菌が検出されています。
2)
はラバーダム、”ヘリ”を消毒した後です。菌が検出されてないので、これで治療中新たに混入させる危険はないかな?と判断できます。(この時に使用した薬剤については後述します)
3)
は水を使って、それまで根管の中に入れてあった消毒薬を取り除いたところです。それまでの消毒が上手く行ってない場合は菌が検出されます。
4)
はその日の消毒が終わって、最後に薬をまた入れて仮の蓋をする直前です。万が一、途中でラバーダムの隙間などから新たに菌を混入してないか、その日の消毒が十分だったかの確認になります。
こういう検査法(嫌気培養と言います)にも、問題がないとは言えないのですが、かなり参考になると思います。
大学病院だったらもしかすると頼めばしてもらえるかも知れません。
(※実は保険点数もつくのですが、この方法は特殊な設備・費用が必要なため、普段からやられる先生はまずいらっしゃいません。現在私も使用しているもう少し簡便な方法もあるのですが、検査の精度は更に落ちると思います。)
もうクドイかも知れませんが、根管治療の成功率についても触れておきます。
過去の研究論文では、
(研究者名/発表年/治療後の観察期間/成功率 の順)
Sjogren et al. | (1990) | 8~10年 | 91% |
Murphy | (1991) | ~2年 | 46% |
Jurcak | (1993) | 1~1.3年 | 89% |
Friedman | (1995) | 0.5~1.5年 | 78% |
Caliskan & Sen | (1996) | 2~5年 | 81% |
Strindberg | (1956) | ~10年 | 83% |
Grahnen & Hanssen | (1961) | 4~5年 | 82% |
Adenubi & Pule | (1976) | 5~7年 | 88% |
Jokinen | (1978) | 2~7年 | 53% |
Barbakou | (1980) | 1~9年 | 87% |
Bystrom | (1987) | 2~5年 | 85% |
Molven & Halse | (1988) | 10~17年 | 80% |
※成功とは・・
「症状がなく且つレントゲン上では正常な歯根膜腔が存在すると見られる状態」
参考⇒これは、いわゆる「根管治療で失敗したケース」でしょうか?
だそうです。
こういった論文の中から初回治療(抜髄、未治療の感染根管)、再治療(すでに根管充填してある、再治療の感染根管)を分けて、なおかつ研究の仕方がしっかりしていて、観察年数も統計学的に統一して計算して、なおかつ「ラバーダムをきちんと使用しているもの」に限ってデータをまとめていくと、
抜髄 | → | 86% | (95%CI 84.2-87.8) |
未治療の感染根管 | → | 80% | (95%CI 78.5-81.5) |
再治療の感染根管 | → | 56% | (95%CI 51.8-60.2) |
となるそうです。
(95%CIとは、統計学的な考え方で、「この数字の範囲の中に、95%の確率で”真実”の値が含まれていますよ」という意味。範囲が広くなるほど統計の信憑性が怪しくなります)
(※宮下裕志先生による統計 歯界展望 2001 vol.97より)
「ラバーダムをきちんと使用していなかった」Jokinen(1978)の論文の内容については、以下の回答の中でも触れています。
参考⇒根っこの治療(根管治療)に高周波治療は有効?
・・ということですから、同じ成功率の数値を引用するにしても、途中のステップやテクニックが違えば結果は当然変わります。
歯の形も色々ですので、Mさんの今回の歯(左上6番)だと特に難しい歯ですね。
上手な先生にきちんとやってもらっても90%以下、ラバーなしなら50%以下と考えるのが妥当だと思います。せめて大学病院に行かれた方が、いいかも知れませんね。
(話はそれますが、サイトで色んな”確率”をまとめてしまった田尾先生には、本当に頭が下がる思いです。田尾先生とは元々知り合いでもなかったのですが、私の少ない知識で読んでみても不審な”確率”ってなかったですから、まとめるのには大変な苦労をされたことと思いますよ。因みに私は大体、「読んだ人から聞いた話」で楽してます・・。)
以下、患者さん向けではない内容になります。
【ラバーダム装着後の消毒について】
私は30%オキシドールを暫くつけて→5%Jを暫く使います。
理由としては、以下の結果を参考にしています。
Moller(1966)の一連の研究(3部作)によると・・
1.
ヨード(J)5%以上の濃度であれば、1分以上消毒すればラバーダムの汚れは消毒できる。(※細菌は成熟してない状態)
2.
成熟した細菌(バイオフィルム=プラーク)はJのみ、あるいはH2O2(オキシドール)のみでは消毒できなかった。H2O2 30%とJ5%の併用が数分必要。
3.
無菌になる時間の組み合わせ(↓上下でペアです)
H2O2(30%) | 2分 | 3分 | 4分 | 5分 | |
J(5%) | 7分 | 3分 | 2分 | 1分 |
とのことです。
ただし、30%のオキシドールは、ラバーダムに慣れてない様な先生が使用すると、隙間から口の中に漏れて化学ヤケドを起こしてしまう猛烈な濃度なので、あまり安易には真似しないで貰いたいのですが・・。
私もさすがに合計6分はおいてませんし(※それでも上記の培養検査で検出されなかったので)、オキシドールの代わりに歯ブラシなどを使用される先生もいらっしゃいます。
聞いた話では米国の専門医でもJしか使用しない様ですから、細かい薬剤や濃度については必ずしも重要視されてなさそうです。
ただ少なくとも、ラバーダムをしただけではまだ処置を始めず、なんらかの消毒は必要だと思います。
回答3
高田歯科 (神戸 三ノ宮・須磨)のタカタです。
回答日時:2007-04-21 09:48:00
ラバーダムが有効なのは既に立証済みなのでおいておいて、なぜ ラバーを嫌がるのか そこに触れてみたいと思います。
それはね、保険治療ではたったの100円しかラバー代を請求できないんです。
でもね、 ラバーダムを使用するときにはラバーが一枚130円位しますし、ラバーを口の中にセットするクランプって器具は患者さんの歯の形に合わせて削って調整するので事実上使い捨てなんですよ。。。
そうすると。。。採算割れ!!
だもんで、自費治療で根管治療をするならまだしも、保険治療ではとてもじゃぁ無いですがやってられないということでしょうね。
ご意見があればどうぞ。
それはね、保険治療ではたったの100円しかラバー代を請求できないんです。
でもね、 ラバーダムを使用するときにはラバーが一枚130円位しますし、ラバーを口の中にセットするクランプって器具は患者さんの歯の形に合わせて削って調整するので事実上使い捨てなんですよ。。。
そうすると。。。採算割れ!!
だもんで、自費治療で根管治療をするならまだしも、保険治療ではとてもじゃぁ無いですがやってられないということでしょうね。
ご意見があればどうぞ。
回答4
ネクスト・デンタル(荒川区西日暮里)の櫻井です。
回答日時:2007-04-22 20:41:00
はい。このサイトの中ではラバーを「どちらかと言うと使わない派」のタイヨウです。
答えはタカタ先生のおっしゃっている通りです。
保険外の根管治療なら意地でも使う努力をしますが、保険であれば使わない事が多いです。
でも、奥歯なら赤字覚悟で使うかな。前歯は半分くらいです。
ずるいんですよ。国は。
「ラバーダムはやりなさい。でも、それにかかる費用は自分持ちだよ。」
と言っているようなものです。
しかも、面倒くさい。
日本の保険医が本気でやるはず無いですよね。
大学病院のように採算度外視(今はそうも言ってられないようですが)で、材料は湯水のように使ってよい環境ならともかく、経営難で倒産する歯医者が続発するこのご時世では‥。
まあ、逆説もあるんですけどね。
「ウチは採算度外視でも、あなたのためにここまでやるよ!」って結構、いいアピールだったりすると思うんだけどなぁ‥。
答えはタカタ先生のおっしゃっている通りです。
保険外の根管治療なら意地でも使う努力をしますが、保険であれば使わない事が多いです。
でも、奥歯なら赤字覚悟で使うかな。前歯は半分くらいです。
ずるいんですよ。国は。
「ラバーダムはやりなさい。でも、それにかかる費用は自分持ちだよ。」
と言っているようなものです。
しかも、面倒くさい。
日本の保険医が本気でやるはず無いですよね。
大学病院のように採算度外視(今はそうも言ってられないようですが)で、材料は湯水のように使ってよい環境ならともかく、経営難で倒産する歯医者が続発するこのご時世では‥。
まあ、逆説もあるんですけどね。
「ウチは採算度外視でも、あなたのためにここまでやるよ!」って結構、いいアピールだったりすると思うんだけどなぁ‥。
相談者からの返信
相談者:
Mさん
返信日時:2007-04-22 23:17:00
各先生、ものすごくよくわかりました。
ありがとうございました。
先生がたには本当に感謝しているのですが、実は昨日ここを読んで、実は今日一日中、気が抜けてました。
治療に対する不安は、もちろんあります。
大学病院でお願いするか(でもヘンな人にやられたら嫌だし…)
自費でやってくれるところを探すか(探してもないかも…)
そして、それをどう先生に伝えるべきか、ということです。
でもシンプルに、「大学病院で神経の治療やってきます」と言えばいいですよね?
何か言われたら、
「大学病院でもいいって言ってみえましたよね?私もこの歯医者を選んで来たわけですので、本当は先生にやってもらいたいのですけど、こちらは患者さんが多くて、時間もないと思いますので、あちらでお願います」
と言えばいいでしょうか…
いろいろぐるぐると不安がめぐって、昨日から気落ちしてます。
どうしてこんな歯にしてしまったんだろうかと、無意味な後悔とかも思い浮かんできます。私の歯なんて、もうダメだろうな、とも思ってきます。
田尾先生のお言葉「自分の歯は自分で守り抜く」と言うのはわかっていますけど…
がんばります。
ありがとうございました。
先生がたには本当に感謝しているのですが、実は昨日ここを読んで、実は今日一日中、気が抜けてました。
治療に対する不安は、もちろんあります。
大学病院でお願いするか(でもヘンな人にやられたら嫌だし…)
自費でやってくれるところを探すか(探してもないかも…)
そして、それをどう先生に伝えるべきか、ということです。
でもシンプルに、「大学病院で神経の治療やってきます」と言えばいいですよね?
何か言われたら、
「大学病院でもいいって言ってみえましたよね?私もこの歯医者を選んで来たわけですので、本当は先生にやってもらいたいのですけど、こちらは患者さんが多くて、時間もないと思いますので、あちらでお願います」
と言えばいいでしょうか…
いろいろぐるぐると不安がめぐって、昨日から気落ちしてます。
どうしてこんな歯にしてしまったんだろうかと、無意味な後悔とかも思い浮かんできます。私の歯なんて、もうダメだろうな、とも思ってきます。
田尾先生のお言葉「自分の歯は自分で守り抜く」と言うのはわかっていますけど…
がんばります。
回答5
歯医者/歯科情報の歯チャンネル運営者の田尾です。
回答日時:2007-04-24 02:23:00
「自分の歯は自分で守り抜く」
言うのは簡単ですけど、実際それを行う患者さんにとっては非常に難しい問題ですよね・・・。
何も知らずにいたほうが、悩まずに済むんじゃないか・・・なんてことを考えることもたまにありますけど、そうも言ってられませんからね。
患者さんへの負担が少しでも軽くなるように、これから歯科界全体が徐々に変わって行かなくてはいけないと思っていますし、僕もそのために努力をしていこうと思っています。
今はその過渡期だと思いますので、Mさんのように悩まれてしまう方が大勢おられることも重々承知しているのですが、これからはそういう患者さん達がもっと悩まずに済むような歯科業界になっていくだろうと思いますので、あきらめずに頑張って下さいね。
言うのは簡単ですけど、実際それを行う患者さんにとっては非常に難しい問題ですよね・・・。
何も知らずにいたほうが、悩まずに済むんじゃないか・・・なんてことを考えることもたまにありますけど、そうも言ってられませんからね。
患者さんへの負担が少しでも軽くなるように、これから歯科界全体が徐々に変わって行かなくてはいけないと思っていますし、僕もそのために努力をしていこうと思っています。
今はその過渡期だと思いますので、Mさんのように悩まれてしまう方が大勢おられることも重々承知しているのですが、これからはそういう患者さん達がもっと悩まずに済むような歯科業界になっていくだろうと思いますので、あきらめずに頑張って下さいね。
タイトル | ラバーダムは理想論!?(根管治療の成功率) |
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質問者 | Mさん |
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年齢 | 38歳 |
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カテゴリ |
根管治療の治療法 ラバーダム |
回答者 |
- 上記書き込みの内容は、回答当時のものです。
- 歯科医療は日々発展しますので、回答者の考え方が変わることもあります。
- 保険改正により、保険制度や保険点数が変わっていることもありますのでご注意ください。